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東京高等裁判所 昭和47年(く)229号 決定 1973年1月24日

主文

本件即時抗告を棄却する。

理由

本件即時抗告の趣旨および理由は、弁護人尾崎正吾、同杉山忠良作成名義の即時抗告の申立書に記載されたとおりであるから、これをここに引用し、これに対して、当裁判所は、次のとおり判断する。

所論引用の最高裁判所昭和三三年二月一〇日大法廷決定(刑集一二巻二号一三五頁)の趣旨は、違法に言い渡された執行猶予の判決に対して、検察官は、上訴権を行使して是正を求めるべきであり、被告人が執行猶予の欠格者であることを覚知しながら上訴することなく執行猶予の言渡を確定させたときは、刑法第二六条第三号によつて取消を請求することはできないというにある。したがつて、執行猶予の判決に対する上訴提起期間内に被告人が執行猶予の欠格者であることを覚知すれば、上訴により執行猶予を阻止することができるけれども、被告人のみが控訴して控訴提起期間経過後に執行猶予の欠格者であることが判明したときには、刑事訴訟法第四〇二条の規定があるために、検察官は、控訴裁判所に対し職権の発動を促しあるいは控訴審の判決に上告しても、執行猶予を阻止できないので、このような場合は、執行猶予の判決確定をまつて検察官が刑事訴訟法第三四九条第一項に従い取消請求をすることができるものと認めることは、(被告人も控訴せず控訴提起期間の経過により執行猶予の判決が確定したときには、その後に欠格者であることが発覚すれば、刑法第二六条第三号の適用があることと対比して)やむを得ないところである。そして、このように解しても刑法第二六条第三号が憲法第三九条後段に違反しないことは、前記最高裁判所大法廷判例の趣旨とするところである。

本件において、抗告人に対する執行猶予の判決は昭和四六年一〇月二七日に言い渡され、その控訴提起期間満了日の同年一一月一〇日に抗告人(被告人)のみが控訴したために、その後同月二一日に抗告人に対し禁錮四月の裁判が確定し、検察官に覚知されても、もはや上訴の方法で執行猶予の判決を是正するみちはとざされているのである。したがつて、検察官の本件取消請求は理由があり、これを容認した原決定の判断はすべて正当である。論旨は採用することができない。

よつて、刑事訴訟法第四二六条第一項後段により、本件即時抗告は、これを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

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